東京高等裁判所 昭和39年(行ケ)145号 判決 1965年11月25日
原告 近藤毛織株式会社
被告 特許庁長官
主文
昭和三八年審判第五、一四二号事件につき、特許庁が昭和三九年八月二七日にした審決を取り消す。
昭和三八年審判第五、一四一号事件についての原告の請求はこれを棄却する。
訴訟費用はその全部を二分し、その一を被告の、その一を原告の各負担とする。
事実
第一、双方の申立
原告は、「昭和三八年審判第五、一四一号事件及び同第五、一四二号事件につき、特許庁が昭和三九年八月二七日にした各審決を取り消す。訴訟費用はすべて被告の負担とする。」との判決を求め、被告は、「原告の請求をいずれも棄却する。訴訟費用はすべて原告の負担とする。」との判決を求めた。
第二、原告の請求原因
一、原告は、昭和三七年七月二二日特許庁に対し、別紙(一)記載のように「Top Mode―Tex」のローマ文字を黒色で筆記体風に横書して成る、また別紙(二)記載のように黒色の菱形輪廓内に「FK」の文字を黒色で活字体に横書きしたものの下部に「Mode―Tex」のローマ文字を黒色で筆記体風に横書して成る、各商標(以下前者の商標を第一商標、後者の商標を第二商標という。)につき、いずれも、第一六類織物、編物、フエルトその他の布地を指定商品とし、かつ登録第二七四、一七〇号商標の連合商標として商標登録出願をしたところ(第一商標につき昭和三七年商標登録願第二三、三八四号、第二商標につき同第二三、三八五号)、昭和三八年一〇月一〇日いずれも拒絶査定がなされたので、原告は同年一一月二五日それぞれ審判の請求をした(第一商標につき昭和三八年審判第五、一四一号、第二商標につき同第五、一四二号)。これに対し特許庁は、昭和三九年八月二七日いずれも「本件審判の請求は成り立たない。」との審決をなし、各審決書謄本は同年九月二〇日原告に送達された。
二、各審決の理由の要旨は次のとおりである。
(一) (審判第五、一四一号の分)
第一商標の中、「Top」の文字が「尖端」「頂点」「首位」等の意味を有すること、また「Mode」の文字に「流行」「型式」等の意義が存すること、さらに「Tex」の文字が「Textile」の略語であつて「織物」の意味を有する語として商品織物につき盛に使用されていること等の諸事実は、英語知識の普及している今日、英和辞典を繙くまでもなく、容易に理解できるところである。従つて、たとえこれらの三語を結合させて「Top Mode―Tex」の文字より成るとしても、前記諸事実に徴すれば、第一商標は「流行の尖端を行く織物の観念を有するとするのが相当であり、またその指定商品との関係から考えると、単に商品の品質を示したものであるといわざるをえない。しかも第一商標は前記の品質を表示する文字を普通に用いられる方法により書してなるものであるから、このような商標をその指定商品に使用しても、需要者は何人かの業務にかかる商品であることを認識することができないものと判断される。してみると、第一商標が商標法第三条第一項第三号の規定に該当するとして登録を拒否した原査定は相当である。
なお請求人は、第一商標は著名商標を要部とするから、商標法第三条第二項の規定により登録さるべきであると主張すると同時に、請求人の有する登録第二七四、一七〇号商標と連合の商標として出願したものであるから、この点から見ても登録さるべきであると主張しているが、著名商標である点については認むべき立証がなく、また後者については、上記拒絶理由の存する以上、前記認定を覆すことができないから、いずれの主張も採用できない。
(二) (審判第五、一四二号の分)
商品の品質、等級、型式等を表示する記号または付合としてローマ文字の一字ないし二字が使用されることは、取引界において普通に行われているところである。第二商標の上半部は、この二個のローマ文字である「FK」をありふれた菱形輪廓内に書して成るものであるから、両者を一体として見ても、きわめて簡単でありふれたものであるといわざるを得ない。また第二商標の残余の部分を構成する「Mode―Tex」の文字について考えると、「Mode」の文字が「流行」「型式」等の意味を有し、また「Tex」の文字が「Textile」の略語であつて、「織物」の意味を有する語として商品織物について盛に使用されていることは、いずれも英語知識の普及している今日、辞書を繙くまでもなく容易に理解できるところである。従つて、たとえこれらの二語を組み合わせて「Mode―Tex」の文字より成るとしても、前記事実に徴すれば、第二商標は「流行の織物」の意味を有するとするを相当とし、またその指定商品との関係において考察すれば、単に商品の品質を表示したものであるといわざるを得ない。このように、第二商標はきわめて簡単でありふれた標章並びに商品の品質を表示する文字を普通に行いられる方法で表示する標章より構成されているから、このような標章をその指定商品に使用しても、需要者は何人かの業務にかかる商品であることを認識することができないものと判断せざるを得ない。
してみると、第二商標が商標法第三条第一項第六号の規定に該当するとして、その登録を拒否した原査定は相当である。
なお請求人は、第二商標は著名商標を要部とするから、商標法第三条第二項の規定により登録さるべきであると主張すると同時に、請求人の有する登録第二七四、一七〇号商標と連合の商標として出願したものであるから、この点から見ても登録さるべきであると主張しているが、著名商標である点については認むべき立証がなく、また後者については、上記拒絶理由の存する以上、前記認定を覆すことができないから、いずれの主張も採用できない。
三、しかし各審決における右(一)、(二)の判断はそれぞれ以下の理由によつて失当であり、これら審決は取消を免れない。
(一) 右(一)の判断について。
(1) 第一商標中「Top」や「Mode」の文字に審決のいう意味があるのは事実であるが、「Top Mode」と結合した状態において使用される例は未だ織物業界にはないことであり、辞書にも見出し得ない。「Top」と「Mode」の何ら関係のない二語を結合して「Top Mode」としたことは原告の創造であるが、その結合された「Top Mode」は前記の如く一般に使用されている事実もなければ、英語の辞書にも見出されない。してみれば、「Top Mode」が「流行の尖端を行く」の意味を直観させる程度に一般に普及しているとはいえない。従つて、「Tex」が「織物」を意味するとしても、第一商標は「流行の尖端を行く織物」の観念を直感させるものではないので、これをもつて商品の品質を表示するものとするのは失当である。
従つて、第一商標は商標法第三条第一項第三号の規定に該当するものではない。
(2) 第一商標は、原告が有する登録第二七四、一七〇号商標「Mode―Tex」(大正一〇年一二月一七日農商務省令第三六号商標法施行規則第一五条所定第三二類毛織物を指定商品として昭和一〇年九月一四日出願、同年一一月七日公告、昭和一一年三月三日登録、昭和三〇年一二月二〇日存続期間更新登録)の左側に「Top」を附加した態様のものであるから、右商標と類似であり、その意味で同商標の連合商標としての登録出願をしたのである。しかるところ右商標は原告が昭和一〇年当時から一貫して製品毛織物に使用して来たもので、第一商標の出願時は勿論現在においても、原告の製品毛織物を表示するものとして一般取引者及び需要者の間に周知かつ著名なものである。第一商標は右の周知著名な登録商標に「最高位、首位」等の意味を有する「Top」を附加したものであるから「最高級のMode―Tex」の観念をもつて一般取引者及び需要者に認識せられるものであり、これが原告の業務にかかる商品であることもまた同時に明らかに認識せられるところである。
従つて第一商標は商標法第三条第二項の規定に該当するものである。
(二) 同(二)の判断について。
(1) 第二商標中「FK」は原告会社の創立者たる現会長近藤房吉のローマ字頭文字であり、菱形輪廓を附した態様において昭和一〇年以来一貫して原告を表示するものとして、また同時に「Mode―Tex」を二段的に附加した第二商標の態様において原告の製品毛織物に使用し来つたもので、第二商標はその出願時は勿論現在においても、原告の製品毛織物を表示するものとして一般取引者及び需要者の間において周知かつ著名なものであつて、右商標を目して需要者が何人かの業務にかかる商品であることを認識することができないとするのは失当である。
従つて第二商標は商標法第三条第一項第六号の規定に該当するものではない。
(2) 第二商標は原告が有する前記登録第二七四、一七〇号商標の上段に「FK」を菱形輪廓内に有する標章を附加した態様のものであるから、右商標と類似であり、その意味で同商標の連合商標としての登録出願をしたのである。しかるところ右商標は原告が昭和一〇年当時から一貫して製品毛織物に使用し来つたもので、第二商標の出願当時は勿論現在においても、原告の製品毛織物を表示するものとして一般取引者及び需要者の間に周知かつ著名なものである。第二商標は右の周知著名な登録商標に出所たる原告会社を示す「FK」の菱形輪廓附き標章を一体的に附加したものであるから、これが原告の業務にかかる商品であることを需要者が認識することができないことはあり得ない。
従つて第二商標は商標法第三条第一項第六号の規定に該当するものではない。
第三、被告の答弁
一、請求原因第一、二項の事実は認めるが、第三項の主張は争う。
二、審決の判断は相当であつて、原告の三の主張の失当なこと以下のとおりである。
(一) 原告の主張三の(一)について。
原告は(1)において、「Top」と「Mode」の二つの文字を「Top Mode」と結合した状態においては、未だ織物業界にその使用例なく、また辞書にも見出せず、従つて「Top Mode―Tex」(筆記体)の第一商標は、「流行の尖端を行く織物」を直感させるものでないというが、これは一般需要者の知識、判断力、織物業界の実情を無視した謬見というの外はない。
まず、辞書に印刷されていない語であつても、商品の品質、効能等を表示するものと判断できる事例は、枚挙にいとまがないであろう。たとえば「Mode」に関係のある言葉を例にとつても「PARIS MODE」(パリの流行)、「SUMMER MODE」(夏の流行)、「MENS MODE」(紳士用服飾の流行)、「SKI MODE」(スキー用服飾用具の流行)等の言葉は、流行に関係のある商品、たとえば装飾品、被服、織物等の商品について、商品の品質、効能を表示する言葉としてひんぱんに使われるものであつて、当業者は勿論これら商品にすこしでも関心を有する一般需要者であれば、その意味を熟知しているのであるが、これらの言葉は右の結合された状態では辞書にのつていない。
してみると、「Top Mode」の言葉が辞書にのつていないから自他商品の識別力を有するとする原告の主張は失当である。
次に「Top Mode」の語が織物業界に使用されている事実がないとの原告の主張は全く理解に苦しむところである。
流行に遅れず、流行にマツチするのを生命とする服飾界(商品「被服」)にあつて、「最新の流行」あるいは「流行の尖端を行く」等の意味を有する「ハイフアツシヨン」、「トツプ モード」等の用語が多用されることはいうまでもないが、さらに商品「織物」についても「Top Mode」、「トツプ モード」の言葉が使用されることは、「織物」が商品「被服」と密接な関係を有する以上当然に考えられることである。つまり婦人服、紳士服等のデザインがいかにトツプモードであつても、素材たる織物が流行遅れであれば、仕立てられた被服は陳腐なものとなるから、洋裁、仕立てに当る者は、まず織物がトツプモードであるかどうかを確かめるのである。すなわち、婦人服地、紳士服地等の織物の柄や色についても毎年の流行があるのであつて、例えば「今年の流行のトツプを行く色は………色である」とか、「今年の流行の尖端を行く柄は………模様である」というのは、雑誌や新聞紙上にもしばしば見られるであろう(乙第一号証の二参照)。事実「Top Mode」に通じる「トツプ モード」の文字は商品織物の広告にもしはしば見出されるのであつて、その例として文化服装学院出版局発行の雑誌「装苑」の昭和三八年七月号(乙第二号証の一ないし三)及び昭和三七年一月号(乙第三号証の一ないし三)を提示しよう。この雑誌は発行部数と著名度において服飾雑誌の首位的地位にあり、全国の多数の洋裁にたずさわる者すなわち商品織物の需要者が常時読む雑誌であるが、右三八年七月号には塚本商事株式会社の有するプリント服地(織物)の「ミユーズ」印の商標に関する広告があり(乙第二号証の二参照)、その中に「Top Mode」に通じる「トツプ モード」の言葉が商品「織物」について使用されている事実を見出すことができる。そしてこの中の「ミユーズはいつもトツプ モード」の意義は「ミユーズ印の織物はトツプ モードの織物である」と解されるであろう。また右昭和三七年一月号には市田株式会社の有するプリント服地(織物)の「ブドー」印の商標に関する広告があるが(乙第三号証の二参照)、その記事の中にも「トツプ モードの文字が商品織物について普通に使用されている事実を見出し得るのである。これらによつても「トツプ モード」の文字が「織物」について普通に使用されていることが理解されよう。
以上のとおり、「トツプ モード」あるいは「Top Mode」(筆記体)の文字は、「ハイフアツシヨン」の語と同様、当業者はいうまでもなく、織物や洋裁に多少なりと関心を有する者であれば、その意味を容易に理解でき、また常に口にする程度に普及されているのであつて、独自の着想で創造したとする原告の主張は単なる独断にすぎない。従つて、この文字に「織物」の意味を有する「Tex」(筆記体)の文字を結合させても、織物の取引者や需要者は、辞書や他の文献に頼るまでもなく、直ちにその色、柄、風合等が「流行の尖端を行く織物」であることに想到するであろう。
また、原告は(2)において、原告の有する登録第二七四、一七〇号商標は原告の製品毛織物を表示するものとして一般取引者及び需要者の間に周知かつ著名であるとし、このことを前提として第一商標が商標法第三条第二項の規定に該当するというが、右登録商標は主張の如く周知、著名なものではない。
以上要するに、第一商標は「流行の尖端を行く織物」の観念を有するとするのが相当であり、その色調、柄等の点で絶えず流行にマツチすることを要求される織物を含むその指定商品との関係から考えて、単に商品の品質を表示したものといわざるを得ない。
(二) 同三の(二)について。
原告はまず(1)において、第二商標中「FK」の文字は原告会社の創立者たる近藤房吉のローマ字の頭文字から採択したもので原告会社の出所を表示するというが、この主張は以下のとおり失当である。
すなわち「FK」の文字は必ずしも近藤房吉をローマ字であらわしたものだけの頭文字でなく、その氏姓をローマ字であらわしたもののイニシヤルが「FK」のものは際限なく多数に上るであろう。その多数の氏姓の略称としてローマ字の文字が、織物等の商品について普通に使用されるがために、数十年の昔から自他商品の識別力なしとしてその登録を拒否されてきたのである。このほか、ローマ字の一字または二字は、商品の等級型式を表示するものとして、例えば商品の外装の箱にチヨークや鉛筆で「AB」とか「ML」のように簡単に記されることが、取引界ではひんぱんに行われているのである。しかも、ローマ字の一字または二字はその構成自体を考察しても極めて簡単でありふれたものといわざるを得ない。
してみると、「FK」またはこの文字をおりふれた菱形輪塵内に書いたものが、原告会社の出所を表示するとする原告の主張は理論的根拠薄弱にして妥当性のないものというべきである。
ところで原告は(1)において、右主張を一つのよりどころとして、第二商標は原告の製品毛織物を表示するものとして、一般取引者及び需要者の間に周知著名のものであると主張し、ひいて第二商標は商標法第一条第一項第六号に該当せずとなし、また(2)において、原告の有する前記登録第二七四、一七〇号商標が右同様周知、著名のものであると主張し、このこととの関連において第二商標は商標法の右規定に該当しないものであるというけれども、第二商標及び右登録商標が主張のように周知、著名であるというのはいずれも事実に反する。
結局第二商標は、極めてありふれた<FK>の標章に、「流行の織物」の意味を有し、従つて商品の品質を表示すると認められる「Mode―Tex」の文字を附加させて成るものであるから、両者を一体としてみても、需要者は何人かの業務にかかる商品であることを認識することができないとの結論に達せざるを得ない。
第四、証拠関係<省略>
理由
一、請求原因第一、二項の、本願第一、第二各商標の構成、指定商品、特許庁における手続経過及び本件各審決の理由に関する事実は、すべて当事者間に争いがない。
二、そこで各審決の当否について検討する。
(一) 審判第五、一四一号事件の審決について。
「Top Mode」、「Tex」の各文字がそれぞれに審決のいう意味をもつ語として広くわが取引社会一般に認識、理解されていることは、現在のわが国における英語知識の普及度から見て明らかなところというべきである。そして右の認識、理解にかんがみるとき、これらの文字を結合して成る第一商標「Top Mode-Tex」は、審決もいうように一般に極めて容易かつ自然に「流行の尖端を行く織物」の観念を生ずるものと見るのが相当であつて、このことは「Top Mode」の語が辞書にあろうとなかろうと(この結合語がいわゆる日本語式英語たるにすぎないものであるならば、辞書にあろう筈はなく、また英語として正しいものであるとしても、かような普通のありふれた結合語が辞書に出ていないのは、むしろ当然のことというべきであろう。)、またそれが原告の創造にかかるもので、未だ一般に使用されたことのないものであろうとなかろうと(成立に争いなき乙第二、三号証の各一ないし三によれば、実際にはこの語はすでに織物についても業界で広く用いられるに至つていることが窺われる。)、かようなことにはかかわりのないところと認められる。すなわちわが国現時の英語知識の普及度からすれば、「Top Mode-Tex」という語自体が―格別の啓蒙、慣用等の補助をまつまでもなく―直ちに一般に「流行の尖端を行く織物」を感得させるものというべく、従つて第一商標はその構成と指定商品との関係からすれば、商品の品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみから成るものというべく、特別顕著性なきものとせねばならぬ。
なお原告は、第一商標は、原告の有する登録第二七四、一七〇号商標「Mode-Tex」の左側に「最高級、首位」等の意味を有する「Top」の文字を附加した態様のものであるところ、右登録商標は原告の製品毛織物を表示するものとして一般取引者及び需要者の間に周知かつ著名であるから、第一商標は「最高級のMode-Tex」の観念を以て取引者及び需要者に認識せらるべく、従つて原告の業務にかかる商品であることが明らかに認識せられるので、右商標は商標法第三条第二項の規定に該当するという。
ところで原告が右の登録商標を有するものであつて、この商標の構成、指定商品、出願から存続期間更新登録までの経過等がすべて原告の主張するとおりであることは、成立に争いなき甲第六、七号証の各一、二によつて明らかであり、そして右商標が原告の製品毛織物を表示するものとして、一般取引者及び需要者の間に周知であることも、後記(二)の判断において示すとおりであるけれども、「Top Mode-Tex」という一連の文字は一般世人にいわば第一義的に、語義上通俗、平易にしてしかも時代感覚に合つた「流行の尖端を行く織物」の観念を以て極めて自然、容易に感得、理解されるものと見られるのであつて、右登録商標が右の如く周知であるにしても、その周知性の故に未た右のような自然、容易な一般の感得、理解を排して、形状、大いさ、書体(普通の筆記体)等すべて同一態様の「Top」、「Mode」、「Tex」の三文字から成る第一商標が取引者及び需要者に登録商標にかかる「Mode-Tex」の中の「Top」として認識されるとはとうてい認められないところである。すなわち、従来周知の「Mode-Tex」に「Top」の文字を加えることにより、却つて「Mode Tex」の周知性がうすれ、その全体が品質表示の標章化して、商標の重要使命である出所表示の機能を喪失するに至るものと認めざるを得ないところであつて原告の右主張は採用できない。
これを要するに、第一商標が商標法第三条第一項第三号の規定に該当するとした審決の判断は相当であつて、その違法をいう原告の主張は理由がない。
(二) 審判第五、一四二号事件の審決について。
成立に争いなき甲第八号証、第二七号証、第二八号証、第三〇号証、第三一、第三三及び第三五号証の各一ないし三、第三六ないし第四一号証、第四二ないし第四四号証の各一、二、第四五、第四六号証、第四七、第四八号証の各一、二、第四九ないし第五八号証、第五九号証の一、二、第六〇号証、第六一、第六二号証の各一、二、第六五ないし第七一号証、第七五号証、第八三ないし第八六号証、第八八号証、第九〇ないし第一〇二号証、第一〇三号証の一、二、第一〇四号証、第一〇五、第一〇六号証の各一、二、第一〇七ないし第一一二号証、第一一三号証の一、二、第一一四号証の一ないし五、第一一五号証の一ないし六に証人安藤隆二、木股英次、岡本重雄の各証言を合わせ考えると、次の各事実が認められる。
(1) 原告会社はもと近藤房吉が個人経営で毛織物の製造販売業をしていたのを会社組織に改めて昭和一〇年頃設立され、創立当初から昭和三七年一月頃まで同人が社長であつたもので、昭和二三、四年頃にそれまで戦争の関係で中絶していた毛織物の製造、販売の業務を再開し、次第にその拡大をして昭和三二、三年頃には織機台数一二〇台余、従業員数五〇〇名前後となり、その後も漸次設備の拡充を続けて現在に至り、現にその保有する設備は年間一二、〇〇〇反以上の生産能力を備えており、そして従来一貫して高級紳士服地の製造、販売を主眼として実績を挙げて来たもので、その間における製造、販売の実績は、昭和三五年の年間九、七〇〇反余を最高として(その後一般の経済情勢に対応して生産を抑制している。)、昭和二五年から昭和三九年までの高級紳士服地の製造、販売高の累計が反数では一〇万反近く、金額では一〇〇億円を超える状況にあつて、この種服地の製造において「御幸毛織」、「大同毛織」と並んでわが国有数メーカーの一つに数えられ、製品の品質も、業界において一おうその信頼度の基準とされる全日本洋服組合連合会主催の紳士服技術コンクールにおける出品作品のメーカー別使用生地点数からすれば(最近においては例年原告会社製造の生地を使つたものが五〇―六〇点出品されている。)、同様屈指の優位にあるものである。
(2) そして原告会社の製品は、三軒の大卸問屋に元売りし、普通はそこから切売り屋を経て、洋服仕立店、百貨店等に販売されるというのを例としているところ、その製造、販売にかかる生地には、一問屋の特別の求めにより、その問屋に卸すものに限つて別の登録商標を用いるものが、その全製造、販売量からすれば極めて少量ではあるが存在するというのを唯一の例外として、原告会社は前記登録第二七四、一七〇号商標の出願をして以来(昭和一〇年頃以降)その製品にすべてこの商標を用いているのであるが、他方また前記近藤房吉はすでにその個人経営当時に自己の氏名のローマ字の頭文字を菱形輪廓で囲んで構成した標章<FK>(以下第一標章という。)を営業上使用していたのが、前記の如く原告会社が創立されてからはこれに引き継がれ、原告会社は右標章をも、本来的には―商品を象徴するというよりむしろ―原告会社を象徴表示するもの、いわばその社名代用とも称すべき趣旨において、業務上多く使用するのを例として来た。
(3) すなわち原告会社はその製品たる生地の耳に登録第二七四、一七〇号商標「Mode-Tex」をその仮名文字「モードテツクス」と共に織り込んで(もつともこの場合ローマ文字は製織技術の都合上筆記体でなく活字体「MODE TEX」によつている。)いる外、これに加え、多くの場合、そして次第に原則的に、同部分に第一標章を、同様製織技術の関係上「FK」と簡略化して織り込んで製品の製造、販売をして来ているのであり、またすでに久しく製品包装紙に前記商標「Mode-Tex」及び第一標章を附して使用し来り、なお相当前から請求書、伝票、出荷明細書、製品見本用フアイル、製品見本台紙、製品保証票、製品申込カタログ、封筒、便箋、メモ用紙、シール、荷札、製品表示札、転写マーク等の取引書類ないしこれに準ずべき業務関係書類にわたり―稀にはそのうち例えば製品保証票には第一標章のみを附するというような例外はあるが、―「Mode-Tex」商標とその仮名文字「モードテツクス」とのいずれか一方又は双方を主体に、第一標章と、このうちの「FK」の文字を図案化して円形輪廓内にあらわし、輪廓の外側に活字体で小さく、原告会社を意味する英文字を連ねてなる標章(以下第二標章という。)とのいずれか一方又は双方を併せ配して表示するという方法を採用して来ているものである。
(4) ところで原告会社ははじめ余り宣伝、広告に力を用いず、元売り、切売りの段階での展示会において、あるいは業務課員が各洋服店を個別に巡つて宣伝するとか、「Mode-Tex」商標と第一標章を合せ表示した看板を製品の特約販売店に掲げるとか、「Mode-Tex」、「モードテツクス」及び第一標章を表示した立看板を国鉄特定駅に出し、また列車内に同様のポスターを吊り、車内広告を出す等していたのであるが、時代の推移に伴い次第にこの面に意を用いるようになり、昭和三七年四月頃から昭和三八年一一月頃までの間おおむね六ケ月又は一年、少くとも三ケ月又は二ケ月の継続期間を以て「Mode-Tex」の商標を各種ラジオ、テレビの商業放送(スポツト放送)によつて放送すること前後十数回に及び、また昭和三四年一二月頃以降昭和三九年の本件審判の審理終結の頃までの間において有力服飾関係誌等の刊行物に、広告文句に「Mode-Tex」商標、仮名文字「モードテツクス」を併せ、かつこれに、多くは第一標章を、ときにあるいは右標章に代えまたはこれと同時に第二標章をも附加して掲載し、あるいは元売り先商社が発行して全国著名洋服店に配布する定期、不定期の洋服関係通信誌に「Mode-Tex」又はこれに「モードテツクス」の仮名文字を附したものを、広告文句に附して又は単独で掲載し、なおすでに相当前から広告文書少くともこれに準ずるものというべき対外的刊行物たる原告会社の会社案内、求人案内、製品案内等にも、極めて稀に第一、第二標章のみを附したものがある外は、「Mode-Tex」又はこれと仮名文字「モードテツクス」の両者に第一、第二標章のいずれか一方又は双方を加えて附するのを例としている。
(5) そして原告会社がその製品たる生地に前記のように「MODE-TEX」及び「FK」を附する場合には、「FK MODE-TEX」の配列によつており、また製品以外のものに前記のように商標「Mode-Tex」、その仮名文字「モードテツクス」、第一、第二標章等を附した多くの例の中では、商標「Mode-Tex」及び第一標章を共に(これらに他のものを加え、又は加えないで、)附するものが最も多く、そしてこの両者を附する場合には、その配置は第二商標の形によるものはむしろ稀で、第二標章は商標「Mode-Tex」と離れて表示され、最も多くは別にあらわされた原告会社名に冠するよう位置ずけられているというのが、本件審判の審理終結のなされた当時までの経過においての実状であつた。
(6) 以上諸般の経緯、事情に伴つて、おそくも右の審理終結当時において、登録第二七四、一七〇号商標「Mode-Tex」は洋服生地の製造業者、卸問屋、切売り屋を始め、洋服仕立店百貨店等洋服調製関係者に至るまで業界の取引者一般に対しいわゆる周知のものとなつており(「Mode-Tex」がときに「MODE-TEX」として使用されたことがあつても、このことを妨げるものではなかつた。)そして一般需要者の洋服生地の購入は、結局は調製業者に対する洋服調製の注文を介し、従つて選択上その意見を参酌して行われるのを実態とするこの種商品の性質上、少くも右調製関係業者の当該商標に関する知識はそのまま一般需要者に移されてその認識たるべき関係にあるため、一般需要者も右商標「Mode-Tex」によつて原告会社の製造、販売にかかる毛織物であることを認識できるようになつていたのであるが、第一標章は、それがもともとは原告会社の社名表示を趣旨とするものであつて、それが商品に使用されるのは右の商標に比すれば副次的というべき関係にあつたこと等前記諸般の関係から、未だ業界においても右商標におけるが如く広く認識されるというに至つておらず、まして一般需要者に周知されるには至つていなかつたものであつた。
かように認定されるのであつて、他に右認定を覆すに足る採用に値いする資料はない。
ところで右のとおり本件審判の審理終結当時において登録第二七四、一七〇号商標が取引者及び需要者間に周知なものであつた以上、これに簡単な構成の第一標章―しかもそれがすでに右商標に附帯して又は独自に使用されたものであること前記の如くである事実をも勘案すべきである。―を小さく組み合わせて成る第二標章は、取引者及び一般需要者をしてその指定商品である製品毛織物等が原告会社の製造、販売にかかることを認識させ得るものというべきであつて、結局それは商標法第三条第一項第六号の規定に該当しないものである。
従つて第二商標が商標法の右規定に該当するものとして該商標の登録を拒絶すべきものとした本件審決は違法であつて取消を免れない。
三、以上のとおりであるから原告の本訴請求中審判第五、一四二号事件の審決の取消を求める部分は正当として認容すべきであるが、審判第五、一四一号事件の審決の取消を求める部分は失当として棄却すべく、訴訟費用の負担につき各行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 山下朝一 古原勇雄 田倉整)
別紙(一)<省略>
別紙(二)<省略>